NHK取材班による「アレルギー医療革命」という本についてまとめます。
この本は、2015年4月放送のNHKスペシャル『新アレルギー治療』の取材内容を元に、限られた放送時間で伝えきれなかった情報、その後に判明した研究成果などを盛り込んでいます。
2016年3月に出版されたものなので情報は少し古いですが、アレルギーと幼少期の環境や2020年実用化に向けた最新免疫療法などを紹介しており、アレルギー科ではなかなかここまで具体的には説明してもらえないレベルで、アトピーやアレルギーに悩む方の必読書となるでしょう。ここでは本の全体的な話の流れをまとめます。
「アレルギー医療革命」の概要(表紙、帯より)
大反響の「NHKスペシャル」を書籍化!
これまでアレルギーの”常識”とされてきた数々の情報は・・・
- 「一度発症した花粉症は治らない」
- 「アレルギーになりたくないなら、アレルゲンをとにかく排除する」
- 「アレルギー予防のために、離乳食はゆっくり進める」
- 「卵などのアレルギー食品は赤ちゃんに食べさせないのがベター」
- 「妊娠中、授乳中の母親の食事が子どもをアレルギーにする」……。
これらはすべて、間違いでした!
20世紀後半から、先進国で爆発的に増加したアレルギー。日本では国民の4人に1人が花粉症を、赤ちゃんの10人に1人が食物アレルギーを発症しています。
・アレルギーパンデミックとも言われるこの状況を打開する手はないのだろうか?
最新研究に迫ろうと始動した取材班が直面したのは、医療の常識が根底から覆ろうとしている衝撃の事実でした。
カギを握る存在として注目されるのが、日本人研究者が発見した新たな免疫細胞「Tレグ」。
この細胞の働きが分かったことで、アレルギー発症メカニズムの解明が進み、完治を目指す根治療法の研究が世界中で始まっています。
世界中の最新研究を丹念に取材し、アレルギーの予防と完治に向けた実践的な情報が詰まった一冊です。
【帯より】
- アレルゲンはとにかく排除する?
- 予防のために離乳食を遅らせる?
- 妊娠中、授乳中の母の食事が原因?
→これらの「常識」はすべて間違いでした!
ほんとうのカギは免疫細胞Tレグ。予防と完治のトビラが開いた!
目次と内容(ネタバレあり、ご注意ください)
- アレルギー患者のいないコミュニティーを追って
-家畜との生活に秘密を発見 - 免疫の常識を大きく変えた「Tレグ」
-日本人研究者が発見! 唯一の制御細胞 - アレルギー予防の“常識”は間違いだらけだった!
-根拠のない指針が患者を激増させたという真実 - アレルギーの本当の原因に迫れ
-「いつ」「どこから」入り込むかが分かれ道 - アレルギーを完治させる! 驚きの最新治療法
-体内の“天秤”をコントロールせよ!
以下より、はじめの数章分のみ要旨をご紹介します。
一部ネタバレを含みますので、ご注意ください。
第1章:アレルギー患者のいないコミュニティーを追って
生まれた時から家畜と暮らし、金銭のやりとりをせず静かに暮らすアーミッシュの人々。
彼らは今から200年前から宗教的な迫害を受けヨーロッパ→北米に移り住む。謙虚に暮らすことを美徳とし、アレルギー患者がいないことで世界のアレルギー研究者から注目を浴びる存在である。
3人に1人がアレルギーのアメリカにおいて、なぜアーミッシュはアレルギーがないのか。その理由を取材した。
シカゴ大学の協力のもと、IgEの量の比較(アーミッシュの子供 6〜12歳 200人の血液を採取、分析)を行ったところ、アーミッシュの子供は都会の同年代の子供と比較して花粉症、アトピー性皮膚炎、猫アレルギーなど、様々なアレルギー値が非常に低いことが分かった。
その後さらに調査を進めたところ、アーミッシュの子供たちには制御性T細胞「Tレグ(Regulatory T Cell)」が多いことが判明した。
第2章:免疫の常識を大きく変えた「Tレグ」
〜日本人研究者が発見!唯一の制御細胞〜
「大阪大学免疫学フロンティア研究センター 坂口教授」により、T細胞が「攻撃司令官」となり攻撃司令→攻撃実動部隊が出動するプロセスが明らかとなる。
「攻撃系細胞」の危険な攻撃を止める「安全装置」が、Tレグの役割である。
以前は「T細胞がきっちりと敵を見分ける」と考えられていたが、「じつは結構アバウトで、その誤りを正すためにTレグがいる」という説が最有力となった。
ここで、ふたたび幼少期から特殊な環境で育ってきたアーミッシュの子供達の秘密とリンクすることになる。
デンマークで8000人を対象に15年にわたる調査
デンマークで8000人を対象に15年にわたりアレルギー症状の変化を追跡したところ、
田舎への移住によってアレルギー症状に大きな改善が見られたが、それには特殊な条件があることが判明した。
第3章:アレルギー予防の「常識」は間違いだらけだった!
〜根拠のない指針が患者を激増させたという事実〜
赤ちゃんの10人に1人は何らかの食物アレルギーである。代表的なものがピーナッツへのアナフィラキシーショックで、最悪の場合、命の危険があるが、その他にもアトピー性皮膚炎やじんましんなどの皮膚湿疹やぜんそくを発症する場合が多い。
●2000年にアメリカ小児学会が出した指針:
「子供をアレルギーにしないためには、妊娠中、授乳中の母はアレルギー食品を避ける」
→指針発表後、医療指導を行うも、依然として食物アレルギーが増え続けたため、逆説的に真実が露呈することとなった。
●2008年に改定された指針:
「妊娠中、授乳中の母、離乳食においてアレルギー食品を避けても、予防効果に科学的根拠はない。アレルギー食品を避ける事を推奨しない」との指導内容へ改定。
●2015年2月、アメリカアレルギー学会(世界的に最も権威の高い学会)での発表:
「非常に早い段階であえて子供たちにピーナッツを食べさせる事によって、アレルギーを予防できることが判明」
●現在の指導内容:
妊娠中・授乳中のお母さんに対して「では現在、どうすれば良いか?」について詳しい指導内容を解説。
第4章:アレルギーの本当の原因に迫れ
〜「いつ」「どこから」入り込むかが分かれ道〜
ロンドンに住む未就学児2000人以上について、ピーナッツアレルギー発症者の91%が○○の時期に○○○を使っていたことが分かった。
第5章:アレルギーを完治させる! 驚きの最新治療法
〜アレルギーを阻止せよ!〜
家庭でもできるアレルギー改善ケア、花粉症のTレグを作る「○○○○療法」。
2020年実用化に向けて開発中の免疫療法など最新のアレルギー治療法を紹介。
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おわりに
以上、本の内容のまとめになります。^^
この本を読み終わって感じたことは、
「アレルギーが発症するプロセスには多くの原因がある。これまでの間違いを認め、ではこれからどうしていくか?を見つめなければいけない」ということです。
このブログではヨーローッパから発信されたオーガニックコスメによるアレルギーについて触れたことがありますが、いま、私たちが「善かれ」と思って行なっていることも数年後にはそうでないことになっている可能性もあるわけです・・・
2019年のいま、アレルギー科での指導内容はよりよいものへ改定されてきていますが、乳児のアレルギーを避けるためのマタニティ期の生活習慣や離乳食の内容は追跡や分析が難しく、まだまだ解明されていないことが多いですよね。
欧米においても「今のところは・・・」という前置き付きで対応して、追跡調査を続けている段階ですので、結論が出るのはもっと先になるでしょう。
このように最新医療現場でも分からないのに、私たちが自分の状況を知ることは困難です。
ただ、結論を待つ間にも私たちにできることはあって、もっと具体的に「自分のアレルギーは何が原因なのか?今後の治療には、どんな選択肢があるのか?」という話を知りたい方もいらっしゃると思いますので、そういう方にこの本はおすすめだと思います。
ちょっとした民間療法レベルの食事療法ではなく、世界で行われている医学研究を知れる良い機会だと思います。
アレルギー医療革命 花粉症も食物アレルギーも治せる時代に! [ 日本放送協会 ]